<時効取得と相続>
共同相続人の内の1人が、被相続人所有の土地の占有を20年間継続した場合
→「共同相続人の一人が単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心ももたず、異議を述べなかった等の事情がある場合には、前記相続人は、その相続のときから相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したものというべきである。」
(最判昭47・9・8民集26・7・1348、判時685・92)
(共同相続人の一人が、相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したと認められた事例)
→ 取得時効の要件である「所有の意思」の有無は、占有の取得原因たる事実である権原の客観的性質によって決まるというのが、通説・判例。
(最判45・6・18裁集民99・375、判時600・83)。
上記判決は、この考え方を前提としつつ、相続による占有取得の二面性を考慮して、単独相続であると誤信した事情、現実の占有状況、公租公課の負担、他の共同相続人が何等の異議を述べていないことなどの、占有に関する具体的事情を総合的にみたうえで、自主占有の取得を認めたもの。
→ したがって、共同相続人の一人が相続財産の占有を現実に始めたからといって、当然当該相続人が自主占有を取得することになることを認めたわけではない。
(以上 「図解 相続・贈与事例便覧」新日本法規出版株式会社)
(「民集」=「最高裁判所民事判例集」)
(「裁集民」=「最高裁判所裁判集(民事)」)
(「判時」=「判例時報」)
被相続人が生前、第三者B所有の土地の占有を継続し、時効が完成した場合に、共同相続人の一人AがBに対し請求する場合
被相続人が生前に占有を20年間継続して、時効が完成し、裁判外でBに対し時効を援用していた場合
→ Aは、Bに対して、保存行為として被相続人名義への時効取得による所有権移転登記請求をする。
被相続人の占有期間及び相続人の占有期間を通算して20年経過または、被相続人の占有期間が20年を超えていたが、被相続人が時効の援用をしていなかった場合
→ 相続人において取得時効を援用できる。
→ 相続人の全員又はその一部の者が当該土地を占有していない場合にも、相続人に占有権の相続を認めるのが通説、判例であるので、当該土地を現実に占有していない共同相続人も、取得時効を援用することが認められる。
→ 「被相続人の占有により取得時効が完成した場合において、その共同相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効の援用ができるにすぎないと解するのが相当である。」
(最判平13・7・10民集55・5・955)
→ Aは、自己の相続分の割合の限度で取得時効を援用することができない。
→ 土地全部について時効取得による所有権移転登記を求めるためには、相続人全員で時効の援用をしなければならない。
(以上 「新版 民事訴訟と不動産登記一問一答」株式会社テイハン)
(「民集」=「最高裁判所民事判例集」)
3.時効取得された土地の所有者に相続が発生している場合
@ 時効の起算日前に相続が開始していた場合
→ 時効取得による所有権移転登記手続請求訴訟を提起する場合、被告は土地所有者の相続人全員。
→ 時効取得によるBへの所有権移転登記の前提として、所有者の相続登記が必要(登記研究455・89)。時効取得が訴訟による場合は、代位で相続登記を行う。
時効期間中に相続が開始し、相続登記が完了している場合
→ 時効取得による所有権移転登記手続請求訴訟を提起する場合、被告は現在の登記名義人。
→ 相続登記を抹消することなく、現在の登記名義人から時効取得者へ所有権移転登記をする。
時効期間中に相続が開始したが、相続登記がなされていない場合
→ 時効取得による所有権移転登記手続請求訴訟を提起する場合、被告は土地所有者の相続人全員。
→ 先例等は存在しないようであるが、時効の効力が起算日に遡及し、起算日を登記原因日付としていることから、あえて相続登記をするまでもなく、被相続人名義からそのまま時効取得者に所有権移転登記を行えば足りるものと思われる。
(以上 「事例式不動産登記申請マニュアル」新日本法規出版株式会社)
以上 文責 司法書士佐藤文雄