不動産登記と裁判

私の経験した事例の一部であるが、この事例に関する意見等いただければ幸いである。

例題 1

 Xは、Yより昭和47年9月27日、郡山市の土地を年月日不詳の売買代金630万円の売買契約を締結したが、昭和47年9月27日付領収書金300万円の証拠資料があった。当時、本件土地には、A銀行の抵当権設定登記がなされ、被担保債権額300万円の残金があった。Xは、その残額を支払った後、本件土地の領収書をYから交付された。なお、本件土地の固定資産税は、Xが支払ってきた。 司法書士は、Xより所有権移転登記の依頼があった。しかし、Yは、それに応じない。

訴訟物 所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権

管轄  不動産所在地

要件事実 @債権的登記請求権・・・・契約締結から消滅時効10年の抗弁

     A物権変動的登記請求権

1 前主が当該不動産をもと所有していたこと

2 前主から原告へ所有権移転原因事実

3 当該不動産に被告名義の登記となっていること又は原告名義になっていないこと。

 ただし、3については、争いがある。しかし、実務上、記載する。

訴状の作成の注意

 当職が作成したように、送達場所を司法書士事務所にすると、弁護士からクレームがくることがある。  現在は、このようにしないほう 
がよい。

登記手続き上の注意

 本件のように被告の住所が登記と違う場合

 登記義務者が住所を移転し、その旨の登記を了していない場合は、判決書を代位原因を証する書面として、債権者代位による所有権移転登  
記名義人の住所変更の登記をする。 なお、実務上、判決書に登記簿上の住所を併記する方法がよく用いられるが(裁判所の当事者適格の 
有無を確認するため)、判決によって所有権移転の登記を申請する場合には、たとえ判決正本に現実の住所と登記簿の住所が併記されてい  
たとしても、住所変更の登記を省略できない。(神崎満治郎著 判決による登記の実務と理論 テイハン254P)

例題 2

郡山市の土地に亡三郎が、昭和35年頃売買により取得したが、平成17年8月15日に死亡した。

昭和37年6月1日、Y株式会社に本件土地を貸し渡し、賃料年1坪当たり500円、期間を満10年間とする賃借権登記を行っていた。Y株式会社は、本件土地に店舗兼倉庫の建物敷地として営業していたが、昭和59年3月23日破産終結し、登記簿謄本は、閉鎖された。

Xは、本件土地を担保に銀行より融資を受けようとしたところ、当該賃借権の存在により断られた。 そのため、当該賃借権の抹消登記手続きをするため本訴となった。

訴訟物 所有権に基づく妨害排除請求権としての賃借権設定登記抹消登記手続請求権

要件事実

1 原告が、当該不動産を所有していること

2 当該不動産に被告名義の賃借権登記があること。

実務上の訴状作成の注意点

1 本件の場合、確かに土地に関する内容のみ記載すればよいように考える

のだが、被告が、実際、存在しない以上、証拠書類として建物の関係書類

を準備する。

2 抹消原因がわからないときは、特に記載する必要はない。

3 本件の場合、破産管財人である弁護士の協力があれば、訴訟を求めなくとも抹消登記が可能である。 しかし、その協力が得られなければ、本件のように特別代理人(民訴法35条)を選任して、訴える以外にない。

  弁護士が、報酬を放棄するとあるが、裁判所との関係で報酬を放棄するのであって、原告から特別代理人に報酬を支払うのは当然である。

  このときは、報酬を放棄する旨を裁判所に提出する。

登記手続き上の問題点

  判決書に、登記すべき権利の変動の原因があるときは、その原因により、その記載がなければ、判決とする。(昭和29年5月8日付民事甲938号民事局長回答)

例題3

Xは、昭和53年4月9日に死亡した義雄の子である。Xは、所有権登記名

義人である被相続人義雄の遺産分割協議を行うため協議したところ、Xの単

独相続に同意したが、相続人中2人以外は、押印だけでなく印鑑証明書の交

付を拒否してきた。

このままでは、相続登記ができないので、裁判手続きを行いたい。

訴訟物  土地の所有権確認請求権

確認の利益 所有権の争いの存在

要件事実

1 Xが本件土地の所有権を有していること

2 確認の利益を基礎付ける事実

実務上の訴状作成の注意点

1 原告被告が4人以上の場合は、当事者目録をつけたほうがよい。

2 相続の戸籍謄本等は、訴状正本に添付し、被告のための訴状副本は、相続説明関係図を利用する。

3 本件は、弁護士法第23条の2に基づく照会による下記の別紙通達を参考に申請した。

登記手続き上の問題点

1 悩ましいところは、通達の内容に「判決理由中に遺産分割協議が成立して原告が、当該不動産を相続したことの記載」を必要とし、さらに「判決理由中の記載には、直接既判力が及ばないとしても、原告が、遺産分割協議により所有権を取得した旨は、当該判決の理由において記載されるのであろうから、この判決と遺産分割協議書の双方を持って、真正な相続を証する書面が添付されているものとして取り扱って差し支えない。」とあるが、判決理由の中に遺産分割協議により所有権を取得したかどうか記載する義務がないのである。

2 上記の場合は、訴状の受理証明書を添付して、申請する。

例題4

X寺は、墓場の駐車場として昭和59年9月頃から利用していた。

しかし、その土地は、昭和59年4月ごろ、土地改良事業により共有地となっている土地をX寺に押し付けられたものである。

X寺は、昭和59年9月からの時効取得の援用の意思表示をYら30名に本訴状送達をもって通知した。

訴訟物 所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権

要件事実

1 ある時点で本件土地を占有していたこと

2 1の時から20年経過した時点で本件土地を占有していたこと

3 援用権者が相手方に対し、時効を援用したこと。

4 Xの所有権に対する妨害としてのY名義の所有権移転登記の存在。

実務上、訴状の作成の注意点

1 請求の趣旨の「所有権移転登記手続きをせよ。」は、登記手続き上、「X寺を除く共有者全員持分全部移転登記手続をせよ。」である  
が、法務局では、どちらでもよいとのことであった。

2 本件は、戦前に登記された所有権登記名義人であったので、不在籍不在住証明を取得して公示送達による手続きを行った。

3 時効取得の場合は、現場がどのように利用されているかなどを判断するため、写真等を添付する必要がある。

4 このような場合、特別代理人制度を利用する方法もある。また、不在者財産管理人制度を利用して、家庭裁判所の許可を得て時効取得する方法(裁判必要なし)もある。

5 書記官によって異なるが、上記の場合でも、いったん被告らに送達して返送されてきた被告のみ、公示送達する取扱の場合もある。

6 被告が、多人数になるときは、被告にも番号をつける。

登記上の注意事項

1 時効取得を原因とする場合は、時効取得の起算日を原因とする所有権移転である。

例題5

Xらの父親であるAは、昭和52年12月1日新築による建物を所有している。

また、Xらの母親Bは、上記建物の敷地を所有している。

Aは、平成18年2月22日死亡し、Bは、平成17年12月14日死亡した。

Xらは、本件土地の敷地を測量した結果、隣地の土地の一部にまたがって建物

が建築されていることが判明した。 Xらは、その土地の一部を時効取得によ

る援用して自己の住宅敷地にしたい。

訴訟物 所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権

要件事実 @ある時点で本件土地を占有していたこと

     A@の時点から20年経過した時点で占有していたこと

B援用権者が相手方に対し、時効援用の意思表示をしたこと

実務上の訴状作成の注意点

1 一部の所有権移転登記をするためには、分筆登記も必要である。本来、分筆登記の場合、測量は、一部の土地だけではなく、その残地も測量した図面が必要であるが、判決による一部の分筆登記は、残地を測量する必要がない。(したがって、和解や調停による場合は、全部の土地を測量)

2 共同相続人の1人から時効取得を主張する場合、自己の共有持分のみの所有権しか主張できない。 本件の場合、共同相続人全員が2人なので、原告として2人で申請した。(最高裁平成13年7月10日第3小法廷判決)

3 請求の趣旨の書き方で「・・・・亡Bへの所有権移転登記手続をせよ。」とすることもできる。この場合、保存行為として相続人単独で被相続人Bへの所有権移転登記手続を求めることができる。当然、固有必要的共同訴訟ではない。

登記手続きの注意点

 時効取得と登記の論点は、下記のとおり

1 本件の事件について整理すると、時効起算日昭和52年12月1日、起算日当時の所有者Bの死亡日平成17年12月14日、時効完成日平成9年12月1日であるが、このように、時効期間中に、時効取得者に相続が開始した場合、一旦、亡B名義に時効取得による所有権移転登記をすべきである。(新版民事訴訟と不動産登記一問一答 テイハン113・114P)

2 この場合、時効完成後、亡B相続人の内の1人が現実に占有していたとしても1人から時効取得による所有権移転登記手続を求めることができるかどうか問題であるが、結論は、遺産分割等立証しない限りできない。

 

参考書籍

 1 要件事実の考え方と実務 加藤新太郎・細野敦著 民事法研究会発行

 2 判決による登記の実務と理論 神埼満治郎著 テイハン

 3 要件事実マニュアル 岡口基一著  ぎょうせい

 4 不動産登記訴訟の実務  長野県弁護士会編  第一法規

 5 事例式 不動産登記申請マニュアル 新日本法規

 6 新版民事訴訟と不動産登記一問一答 テイハン 青山正明 編著 

 7 司法書士月報 2004年5月号 47P  立命館大学法学部助教授 本山敦「時効の援用と共同相続」

 

時効と相続

<時効取得と相続>

 共同相続人の内の1人が、被相続人所有の土地の占有を20年間継続した場合

 →「共同相続人の一人が単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人がなんら関心ももたず、異議を述べなかった等の事情がある場合には、前記相続人は、その相続のときから相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したものというべきである。」

(最判昭47・9・8民集26・7・1348、判時685・92)

 (共同相続人の一人が、相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したと認められた事例)

→ 取得時効の要件である「所有の意思」の有無は、占有の取得原因たる事実である権原の客観的性質によって決まるというのが、通説・判例。

(最判45・6・18裁集民99・375、判時600・83)。

上記判決は、この考え方を前提としつつ、相続による占有取得の二面性を考慮して、単独相続であると誤信した事情、現実の占有状況、公租公課の負担、他の共同相続人が何等の異議を述べていないことなどの、占有に関する具体的事情を総合的にみたうえで、自主占有の取得を認めたもの。

→ したがって、共同相続人の一人が相続財産の占有を現実に始めたからといって、当然当該相続人が自主占有を取得することになることを認めたわけではない。  

      (以上 「図解 相続・贈与事例便覧」新日本法規出版株式会社)

          (「民集」=「最高裁判所民事判例集」)

(「裁集民」=「最高裁判所裁判集(民事)」)

(「判時」=「判例時報」)

 被相続人が生前、第三者B所有の土地の占有を継続し、時効が完成した場合に、共同相続人の一人AがBに対し請求する場合

被相続人が生前に占有を20年間継続して、時効が完成し、裁判外でBに対し時効を援用していた場合 

→ Aは、Bに対して、保存行為として被相続人名義への時効取得による所有権移転登記請求をする。

被相続人の占有期間及び相続人の占有期間を通算して20年経過または、被相続人の占有期間が20年を超えていたが、被相続人が時効の援用をしていなかった場合

→ 相続人において取得時効を援用できる。

→ 相続人の全員又はその一部の者が当該土地を占有していない場合にも、相続人に占有権の相続を認めるのが通説、判例であるので、当該土地を現実に占有していない共同相続人も、取得時効を援用することが認められる。

  → 「被相続人の占有により取得時効が完成した場合において、その共同相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効の援用ができるにすぎないと解するのが相当である。」

(最判平13・7・10民集55・5・955)

    → Aは、自己の相続分の割合の限度で取得時効を援用することができない。

→ 土地全部について時効取得による所有権移転登記を求めるためには、相続人全員で時効の援用をしなければならない。           

    (以上 「新版 民事訴訟と不動産登記一問一答」株式会社テイハン)

        (「民集」=「最高裁判所民事判例集」)

 3.時効取得された土地の所有者に相続が発生している場合

  @ 時効の起算日前に相続が開始していた場合

    → 時効取得による所有権移転登記手続請求訴訟を提起する場合、被告は土地所有者の相続人全員。

    → 時効取得によるBへの所有権移転登記の前提として、所有者の相続登記が必要(登記研究455・89)。時効取得が訴訟による場合は、代位で相続登記を行う。          

時効期間中に相続が開始し、相続登記が完了している場合

→ 時効取得による所有権移転登記手続請求訴訟を提起する場合、被告は現在の登記名義人。

→ 相続登記を抹消することなく、現在の登記名義人から時効取得者へ所有権移転登記をする。    

時効期間中に相続が開始したが、相続登記がなされていない場合

    → 時効取得による所有権移転登記手続請求訴訟を提起する場合、被告は土地所有者の相続人全員。

→ 先例等は存在しないようであるが、時効の効力が起算日に遡及し、起算日を登記原因日付としていることから、あえて相続登記をするまでもなく、被相続人名義からそのまま時効取得者に所有権移転登記を行えば足りるものと思われる。    

(以上 「事例式不動産登記申請マニュアル」新日本法規出版株式会社)

                    以上 文責 司法書士佐藤文雄


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